Samoa / サモア 安宿の奇妙な人々編
サモアではろくに観光もしないうちに、近所の魚釣りをしている内に熱中症となり体調を崩し、調子が戻ってもマクドナルドで本を読んだりといった体たらく。そんな自分を見かねた旅の神様は、安宿のドミトリーに濃いアメリカ人二人を差し向けてくれた。
黙って仕事を片付ける的な、一徹系もいるだろうけれど、おしゃべり好きの世話焼きというのがアメリカ人の類型といったところ。そこに話題と時間がある限り!いつまでもとばかりに、とことん喋ってくれるけれど、神様が差し向けられた二人のアメリカ人はまさにそのど真ん中な上に、話す内容が濃い二人だった。
そのうちの一人は、少し前まで軍属だったフィリピン人とアメリカ人のハーフでオバマ嫌い。もう一人はマサチューセッツ在住、ハム無線を昔からやっているリタイア世代の地理オタク。今回のサモアは、トケラウに行くために来て、日本の昭和基地の人と交信したことがある。なんていう。
彼らと話したことは、録音しておきたいくらい興味深かったけれど、元軍属の彼の発言からは、世界最強の自負とアメリカにたてつく連中への容赦無さがにじみ出る。世界で一番強い国のルールは世界中で通用するべき、武力を使って相手をねじ伏せることの何が悪いというネオコン論調。
話しのテンションが上がってくると、
「ったくオバマの糞野郎、パキスタンの山には戦術核をぶち込んでさっさと戦争を終わらせろ」
などと宣い、我らが日本と結ばれた軍事同盟である、安保条約なんてものはアメリカの為にある条約であるという認識で、
「アメリカが日本のために戦争するわけないだろ!」
とハッキリ言う。
二つの大戦でも、繋がりの強い国が占領されたり危機に瀕しても、アメリカって戦争しなかったしね。自分が戦争したいタイミングで世論を盛り上げ、ワーッとやるんだよな。彼の話は突拍子もない言動もあれば、日本人であれば耳を塞ぎたくなるような言葉も少なくないのだけど、的を射ている発言が少なくない。「〜して欲しい」「〜だと思う」といった曖昧な言葉遊びが無く、「〜だから、〜なんだよ。」と論点がぼけない。
地理オタク氏と太平洋の島国の事で盛り上がっていても、
「何いってんだよ、パラオもマーシャルもミクロネシアも、全部アメリカの領土だ。」
と高らかに宣言し、
「確かにグアムと比べれば独立国かもしれないが、まもなく入国審査のシステムはアメリカが取り上げる。何しろ、テロリストを防ぐことができないからな。」
という。
「そんなことしてたらアメリカはどんどん孤立する。」
なんて地理オタク氏が反論したり、
「そもそもマーシャルやミクロネシアもアメリカも、ハワイやグアムを経由しなければほとんど入国できないじゃないか」
と、日本人がつたない英語で無意味さを指摘しても意に介さない。
「アメリカ以外に、彼らが頼る国があるのかよ?じゃぁ何?フィリピンが、パラオのサポートをするか?それをパラオが望むか?」
と言う。
アメリカ人の大半がこういった考えでないのは、その場でアメリカ人が反論したり意見するから分かるけれど、少数派ではないのも事実。なんとも萎える。
地理オタクのじいさんは、僻地を旅することがライフワークになっているらしく、サモアに来たのもここから船で行くしか方法がない人口1,500人のニュージーランドの自治領、トケラウ諸島に向かう為。話しが地理馬鹿ど真ん中なので、ウンウン相づちを打っているとどんどん調子良くなってきて、北極点、もしくはできる限り北に行きたい、スバールバル諸島はちょっと南過ぎる(普通に北緯75度!とかの島で、旅行者が簡単に行ける場所としては最北クラス)だし、観光地過ぎる!なんて言いだす。
ネオコン氏もナカナカだけど、これまたかなり頭がポッポしてるお方。
話しが北極から南極方面になり、ウスワイアの話にもなったのだけど、厳しい気候での植生、森林限界等の話で盛り上がる。ウスワイアから南極にも向かい、フォークランド諸島やサウスジョージア島にも行ったことを話してくれるけれど、もし君が行くならやっぱり極地クルージングになるんだろうけど、しっかりした地理学者/Geographerが乗った船にしないとだめだよ。なんて助言をくれる。
「ああいう極地クルージングのつまらないところは、ペンギンやら鯨やらの観察にあまりにも多く時間を割くところだね。残念だけど、それは覚悟した方が良いよ」
と言う。このオヤジ、我が意を得たり!
「私はもっと、サウスジョージア島で時間を割いてもらい、この島を探検した(というより、南極探検の最中に船を失った後の大漂流?)サー・アーネスト・シャクルトンの辿った道を歩いたり、彼が見た景色を感じたかったんだ。それなのに、サウスジョージア島ではペンギン観察ばっかりだったよ。確かに数は多い位かも知れないけど、動物園にでも行けばいくらでもみれるのに。。」
なんて言い出す。こいつは地理馬鹿だな。
日本に対しての目の付け所もなかなか面白く、
「日本人のハム無線愛好家が、一番綺麗な写真のカードを送ってくれる。世界のいろんな人からカードを送ってもらうけれど、日本人の写真とカードが一番だ。技術はもちろんだけど、丁寧だよな仕事が。」
なんていった内容のことを言う。
おそらく、ハム無線で交信できた人とのカード交換のようなモノなのだろうが、こういう日本人の長所に気がついてくれるのは嬉しい。写真の撮影技術はもちろんだけど、年賀状などで培われたのか、自前や半自前で写真をカードにし、送る!なんてことに長けているのかもしれない。
キッチリ定年まで仕事をした後、彼は自分の夢を叶えるべく世界の僻地をこうして歩いているのだろうけど、こういういい歳になっても僻地を情熱を持って旅し、アジアから来たひげ面小僧に、友達みたいに話しかけてくれるのは、何とも素晴らしいことだね。地理好きじゃない人間なら、はた迷惑なオヤジかも知れないけれど、自分がやっていることを包み隠さず、たいしたきっかけも無しに話し始めるのはアメリカ人の良いところだよな。
そういえば、さっきのネオコン氏も、力を誇示する発言が一息つくと、自分が出かけたアメリカンサモアの法制度と連邦法との関係、公共サービスのアメリカ本土との違いなんかをじっくり教えてくれたりしたなぁ。
万が一平均寿命を天から授かって、ある程度健康でいるのなら、60を過ぎても、食って行くために運び屋仕事かそれに準じた仕事を自分は続けているはず。そしてその仕事の役得である旅を、ああだこうだ言いながら続けていると思う。
旅の濃度はどの程度か分からないけれど、このアメリカ人地理オタク氏のような、近くの人間の旅心を刺激するような爺さんになりたいなぁ、などと思う。
そして、ネオコン氏からは、シンプルで回り道しない思考回路を拝借したいなぁ、などと思う。