四国遍路 Shikoku Henro Day-15
お前みたいな糞虫は、うちの宿に泊まらなくていいよX3
15日目を短くまとめると、
荷物が軽いこともあって、朝の7時半からあまり休みも取らず、ほぼ限界に近い55キロ以上を歩いて足摺まで辿り着き、限界まで頑張った!自分にご褒美!ということで野宿せず、久方ぶりに宿に泊まろうとすると、電話をかけて辿り着くいたペンションに宿泊拒否!される。
ま、そんな一日だった。今日の遍路日記は距離同様、無駄に長いので、斜め読み!でどうぞ!
朝は6時前の起床。
四万十のキャンプ場から中村駅に向かい、7時19分発の始発に乗り込み、昨日歩きを一時中断した浮鞭の駅に到着したのが7時34分。歩き始めとしてはかな
り遅く、太陽がとっくに昇ってしまい、海沿いの公園では、野球の練習が始まり、朝イチの波を楽しんだサーファーは海から上がって休憩中だった。
蛎瀬川を渡ったあたりから内陸の道になり、長閑な田舎を貫く農道を歩くといったところ。アップダウンもあまり無く、恐れるに足らない区間のように見えるの
だけれど、蛎瀬川から四万十川までの、この単調な9キロが、凄く長く感じられた。焦る必要は無いのだけれど。一日の始まりが遅かった事のだるさなんかが原
因な気がする。
四万十川を四万十大橋に出たのが10時半。
天候が安定しない上、田圃の水が入ってしまう時期なようで、四万十の色はターコイスブルー。透明度が低く、川の中を覗き込んでも魚が踊るような景色を見ることができないのが残念だ。四万十川や仁淀川がその名の通り、川底まで見えちゃう清流な時期にまた来てみたい。
四万十を越えてから、道は国道321号線になり、歩道がゆったりしていることもあり、気分もようやく爽快になる。中村の一条氏が、故郷京都を偲んで始めたと言われる「大文字」の送り火が炊かれる小山を眺め、通り過ぎ、少しのぼったあとに新伊豆田トンネル。
段差の歩道がある上、交通量もそれほど多くないので、恐れる程ではないけれど、お遍路の長い道中で、最長の部類のに入るのがこの新伊豆田トンネル。こちらがトンネルに入る前、逆打ちでもしているのか、トンネルを歩き終えたらしいお遍路さんがぐったりしていた。
トンネルを抜け、ドライブイン水車で少し足休め、午後1時半、下ノ加江のスリーエフで中休止。歩き始めて6時間で、距離は約26キロ。やはり朝一に歩き始められなかったので、距離もスピードも伸びない。
午後3時、大岐海岸到着。
地図をたよりにせず、何も考えずに国道の歩道をひたすら歩いたため、歩き遍路のお楽しみポイントの一つでもある、大岐海岸で、浜沿いの道にそれるのを忘れ
てしまう。大岐の集落を抜け、少しアップダウンがあったあと、次は以布利の集落。今日は以布利辺りですれ違うバスを捕まえ、中村に帰ろう!なんて思ってい
たのだけど、またもや分岐で地図を確認せず、道を間違い、以布利の集落でなく、土佐清水市に向かう道を選んでしまう。
ザックのポケットにある遍路地図を取り出すだけで問題は解決するのに、何故かこの日は遍路地図に手が伸びなかった。なんでだろ?
トンネルを越え、坂を下るとこじんまりとした土佐清水市街のはずれ。
時刻は午後4時過ぎ。土佐清水は静かな入り江の奥の漁師町といった雰囲気で、西日を受けた海に照らされ、輝いていた。iPhoneの地図ソフトを起動し現在位置確認すると、土佐清水は、土佐のはずれのまたはずれ。我ながら良く歩いたなぁ、と感慨もひとしおになる。
土佐清水で休んでも良かったけれど、足摺岬への道標と、距離数を見る限り、15キロを切っており足摺が射程内に思えてしまう。せっかくだから夕日を眺めながら歩いてやろう。やろうかぁ!となる。
よし、そのまま足摺に向かう事にしよう!なんて、どこか急いてしまっている自分が歩く海岸沿いの道で、親子連れが海を覗き込んで、のんびりアオリイカを探していた。のんびり、ゆったりと。
ジョン万次郎が生まれた中ノ浜を午後5時過ぎに通過。
土佐清水が、土佐のはずれのはずれなら、中ノ浜はそのまたはずれ。それでも人が堂々と住み、歴史に名を残す人物を出していて、中ノ浜の背後の山は足摺国立
公園内だからか、手つかずの原生林だ。日本は人も自然も多様で、奥深い。いろいろ問題はあるけれど、この国に生まれてきて良かったぜ。
大浜着午後5時半。
金剛福寺を目指していれば、海沿いの道を歩きながら、九州の方角、西の海に向かって沈んでゆく夕日を眺めることができる。なんて思っていたのだけれど、とんだ見当違いだったことに気がつく。
大浜を過ぎて、県道から遍路道に入り山道を歩いてゆくと、海岸線が見えなくなるばかりか、岬が背後になる上、進行方向は東。海岸線は右手になって方角的には南。あ、文章にするとよくわからないな。ま、とにかく、夕日は見えなかった。
国道や県道沿いの歩道が続いていたので、静かな未舗装道が本来であれば心地良いのだけれど、心置きなく遍路道を楽しむには、時間が遅すぎた。
遍路道を抜けて、松尾の集落を抜けたのが午後6時半。足摺中学校を通過し、国民宿舎足摺テルメを通過する頃、あたりは完全に闇になっていた。おまけに、足
摺テルメを通過する道は脇道で、足摺の集落を1/3くらいかっ飛ばしてしまった様子。ここでなんとなく宿を決められなかったことでケチが付いた。
足摺テルメからの道を下り、郵便局あたりに出るが、足摺の集落は、閉店ガラガラ状態。
宿探しをするが、
一軒目。 「ごめんなさい、満室です。」
二軒目。 「ごめんなさい、満室です。○○宿ならまだなんとか。。」
三軒目。 ○○宿。どうしても見つからない。
ぬぅ、
もう7時過ぎ、ネットで見つけられた足摺のユースホステルも満室でどうにもならないとのこと。
なんとか、ユースからほどない場所に、こぎれいなペンションと民宿を掛け合わせたような宿を見つけ、玄関に書かれている電話番号で、空き室を確認すると、8時までにチェックインすればまだ部屋はあるとの事。
ほっ。
せっかくなので、二軒目の民宿に紹介された、三軒目の宿を探すが、どうも見つからない。まあ仕方が無いしと、結局そのこぎれいな宿に向かう。
が、こちらが玄関に入り、「5分前に電話して云々。。」と伝えると、
「あ。。。。歩き遍路。。さ。。んだったんですか。」
みたいにあからさまに嫌な顔。
「うちには板前がいないから夜の食事が用意できないですよ。」
といきなりの切り口上。
部屋を準備するという事で、玄関でしばらく待たされる。
行動食もあるし、晩飯がでないのは承知の上だけれど、今日は頑張った間隔でいるので、
「食事だけでも食べられる所があれば、まずは荷物だけ置かせてもらって、そこで食べてこようと思う。お風呂が空いた頃には戻る。。。」
と伝える。が、ここで豹変。突然、何を取り違えしたのか、
「いい、もういい、いい、もういい」
の一点張り、それしか言わない。
「え?いいってどういう意味ですか?」と聞き返すと
「裏の椿荘さんは、板前もいるし、食事が出ますよ、そっちがいいですよ、うちはもういいですから。。」
と変な感じ。
「えあ?」
「いい、いいです」
引き続き「いい」の一点張り。
なんだ?
あ、そうか、この宿にお前みたいな糞虫は泊まらないで「いい」ってことか、「いい」を前面に押し出すのは、言葉尻をとられて、「宿泊拒否をした宿」の汚名を被りたくないのかな?
なんて、まずは驚いていると、
「もう泊まらないで、もう出て行ってください、椿荘さんなら、部屋もあるでしょうから。」
とのこと。
あ、宿泊拒否だ。
宿泊拒否しちゃったよ、この若旦那。。。と思うが、それ以上、怒りや悲しさを通り越したという感情でもなく、何の感情も涌いてこない。
長い旅人生で、人生で何百泊とゲストハウスからちょっとしたホテルまで、いろんな宿に泊まってきたけれど、こいつは初めての経験だ。
でも、以外にも冷静に状況を捉える感情にしかスイッチは入らず、逆上したり、沸々したりすることも無かった。「あ、そうですか」なんて気持ちで宿を去る。
追い出された宿のすぐ裏手には「ホテル椿荘」の看板。
お、年季は多少入ってるけれど、れっきとしたホテルだな。ホテルに泊まる選択肢は無かった上、疲れてて民宿っぽいところばかりに声をかけてたから、見つからない訳だ。
フロントに向かい宿泊料金を尋ねると、部屋はあるようで、素泊まりで、5000円+消費税。まあ、足摺の民宿ホテルは高いという事だったし、今日は気力体力ともに尽きかけているので、それでお願いする。
記名やら、チェックインの手続きをしていると、フロントの奥からオバちゃんが現れ、
「お遍路さん!歩き?どこから?え?中村!一日で、あら!いやぁ!お疲れだったね。!」
と出迎えてくれる。そして、ゴニョゴニョと、フロントの息子さんであろう若旦那と一緒に部屋をどこにするか何やらやりつつ、
「お遍路さん!5,000円でいいから!5,000円。厨房締めちゃってて、晩ご飯は出せないんだけど、おばちゃんがおむすび作ってあげる。お腹すいてるでしょ?え?いいのいいの!あとでお部屋に持ってっとくから、先にお風呂でも入っててね!」
なんて言う。
じんわり。。。
ーーーーーーーーーーー
昔々。。。土佐の足摺に。。。
日がとっぷり暮れてから辿り着いた旅人がおったそうな。
旅人は、庄屋どんの家で一夜の宿を求め、
「ごめんください、一夜の。。。」
とお願いをしたのじゃが、言い終わりももせぬうちに、
「糞乞食!この穀潰し!税金泥棒!」
と罵られて蹴りだされてしまったそうな。。。
旅人がしょんぼりしていると。。。何やら、庄屋どんの家の隣のあばら屋から声がする。
「旅の人!狭苦しくてすきま風が吹いとるけんども、泊まってき。」
と、招く。
あばら屋の爺さんと婆さんは、旅人に精一杯のおもてなしをしたんだと。
。。。。。
で、その旅人が実は、なんと神様! チャッチャラー!
そこからは、
その夜を境に、庄屋どんの家の家運が傾き、貧しいお百姓さんの軒下からは、100兆両の小判が出て。。。。。
なんてのが日本昔話のお決まり。願い事を叶えてパターンもあるな。
神様役の自分が、
「これ、椿荘のおばさま、この椿荘を、我の神通力で、1000階建ての世界一のホテルに立て替えて進ぜ。。。。。。」
って言ったら、
「いえいえ、私たちは家族が元気で働いて食べているだけで、幸せなんですよ。私たちは足摺に遊びにきてくれる人が、1,000人増えてくれるだけで、嬉しいんです。それが望みでございます。」
なんて返していそうな、椿荘ホスピタリティーでした。
あ、これを聞いた宿泊拒否しちゃった方の宿の若旦那が、
「神様!椿荘の家が、何にも望まないんだったら、こちらのホテルを1000階建てにしてくだされ。。。。」
なんて言ったら、100兆回、宿の前でゲップすることにします。
ということで、完全停止不能状態からの、超絶前進快活状態。
宿泊拒否された時、こちらから宿の若旦那に、罵詈雑言を投げなかったのは、自制できたというより、猫だましを喰らって気をそがれ、感情が出てこなかっただけなんだけど。。。。とにかく、怒らなくて良かった。
足摺岬が「怒りの岬」として記憶に残らず、おかげさまで、この先のお遍路でウジウジすることもなさそうだ。こういうまぐれがこの先も続いて、椿荘の親子に感謝して就寝。
明日は雨になりそうだなぁ。
15日目
歩行距離 / 約55.75Km くろしお鉄道 浮鞭駅 〜 足摺岬 ホテル椿荘
お寺 /