受け継いだ時点で、
半弓道場は半弓「道場」でした。
江戸や明治時代に庶民の間で流行した「半弓」は、大正時代に急速に衰退し、日本の歓楽街から姿を消していったのですが、高山の半弓道場はなんと昭和の開業。何故その時期に開業したのかを、高山の自然文化とあわせて語ることはまたの機会にしますが、すでに廃れていた庶民文化が、奇跡的に90年以上高山に温存され続け、気がつくと日本で唯一の場所になっていました。
そういった経緯や事情もあり、
明確な「半弓」に関わる規定や「半弓」の言葉が意味する定義すらなく、高山にしか残っていないために「半弓って?」という疑問を参照できる資料や施設がないまま、先代や長い常連さんの話を聞きながら、運営を続けて来ました。
「半弓道」が存在しないにも関わらず、「道」場を受け継いだ上に、そもそも私たちは営利事業。
存続のためとはいえ、お客さんの間口を広げたために、内心としては「武道」から遠ざけてしまってるなとも感じておりましたが、
この度、スポーツ文化ツーリズムアワード2022で「武道ツーリズム賞」を半弓道場として受賞することになりました。
https://www.bunka.go.jp/koho.../hodohappyo/93817701.html
応募形式としては、各部門に応募するといより「スポーツ文化ツーリズムアワード2022」に応募し、審査委員の方が、各取組に対して、それに相応しい賞を選ぶような感じだったのですが、
取り組み概要を記載する応募申請書の、
「スポーツ振興の面から見た本イベント等の取組や工夫について、詳細に記載してください。」
という項目に、
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和弓を用いて矢を放つため、「スポーツ」や「武道」の要素が多く含まれ、「遊戯」のつもりで来場した来場者は、文化/スポーツ/武道体験をしたと感じている。
半弓は弓道とは別物であるが、弓道経験のある来場者の満足度が非常に高く、弓道を再び始める方、ここでの体験後に進学後に弓道部に入部する方も多い。何より気軽に和弓に触れることができる場である。
飛騨高山に来ている外国人は、武道を含めた日本文化に興味のある方が多く、すぐに体験できる事が、滞在満足度向上にも寄与している。経験者も初心者でも楽しめる「GIVE IT A SHOT!」に誘う施設にし、初心者に成功体験を与える運営をし、スポーツ文化振興に貢献したい。
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なんて記載したのが、唯一、私が応募申請書に記述した「武道」の文字。
他の記述でもできる限り「半弓道場」でなく「半弓場」という言葉を用いていたのですが。。
「道場」という言葉を自分自身が消化しきれないうちに、賞をいただくことになり、ムズムズしています。
けれど、
「ツーリズム」という言葉に目を向ければ、そのコアな要素である「他国,他地域の風景,風俗,文物等を見たり,体験したりすること」
という要件を十二分に満たしている施設だと自負しています。
この場所がなくなると自分にとっての「高山」が高山でなくなってしまうような場所だと感じて、事業継承の手をあげましたが、半弓道場を「唯一無二」の場所と感じられたのは、私が高山生まれでない「旅の人」だったからかもしれないし、半弓にやってくる旅行者の方が、物珍しさも手伝って、一回の体験が与える重みは大きいかもしれないとも感じます。
そんな気持ちを共有してくださる方、先代や先代の事業を支え続けたお客様。
そんな皆様の積み重ねで94年間続いている社会と地域の資産を、次の世代、まだ見知らぬ人に楽しんでいただくためにも「今」を重く受け止め、胸を張って賞をいただこうと思います。94年間のうちの5年間しか運営をしていないことは、これからも頑張るってことで、目を瞑ってやってください。
これからも、
歓楽街の迷宮の奥まで足を伸ばす外国人旅行者への宝箱であり、
言葉が通じなくても、旅行者に手を差し伸べる場所であり、
飛騨の名工や伝統技術の継承者の逸品を必要とする事業であり続け、
国内外の旅行者や、地元の熟達者、高山の酔客、弓道経験者が粋に交流できる
地域の資産を守っていきます。