四国遍路 Shikoku Henro Day-10
高知、俺はお前の事が大好きだ。朝、四国だから野宿していいという法律は無いし、お遍路の身なりをしていれば無理が通るというものでもない。当然、全ての四国の人がお遍路に寛大だと思ったら大間違い。
でも、マナーを守って暗くなってから寝床に潜り、早朝に撤収するならば、通報されたり、職務質問を受けたりするようなことが四国はやはり少ない。お遍路中の何度か野宿をしたけれど、全て無事に気持ちよく朝を迎えられ、この安芸市の朝がその一度目だった。
とはいって、やはり職質やら襲撃やら悪戯への心配が100%拭えない分、野宿の朝は、一日がただ始まったばかりなのに、何かをやり遂げたような感じがして、宿泊費を浮かすことができた嬉しさも加わる。
「よし、朝だ。問題なく朝を迎えられた!あざす!」
朝を無事に迎えさせてくれた四国、何も心配せずに寝起きできる家のありがたさ、家が無い人の辛さを知る。。。なんて言ったら大げさかな。
さて、出発。5時半。
昨日は朝の7時から休憩や食事を挟みつつも夜の9時過ぎまで歩いた。けれど、10時には寝ていたので、朝5時起きでも睡眠は7時間。
野宿歩き旅は、起きたら歩く、歩みを止めたら寝るといった究極のシンプル旅になる。朝食を待つ必要も、布団が敷かれるのを待つ必要も無いので、距離が伸びる伸びる。ま、距離が伸びるといったって「歩き」なので、自動車自転車にバシバシ追い越されるんだけど。
昨日の強行軍が功を奏し、今日はなんとか高知市内に辿り着けそうな予感。ずいずい歩く。
が、やってしまう。
7時過ぎ、歩いている時にサングラスを公園に忘れた事に気がつく。
りょりょ!ったく、相変わらずだな。
携帯の時刻表で調べると、まずはこのまま進んで、くろしお鉄道赤野駅に向かい、そこから引っ返して、サングラスをピックアップ、そして戻れば1時間のロスにもならなさそうなのが不幸中の幸いだ。
サングラスは既に傷だらけな上、ストラップを含めても7ドル程度。アメリカのウォールマートの釣りコーナーで買った安物。そのままでも構わないのだけど、ゴミとして捨てられるのと、せっかく朝を迎えさせてくれた場所に申し訳ないし、何よりあの偏光サングラスが無いと、四国の清流を泳ぐ「お魚チェック!」ができない。
ということで、赤野駅からくろしお鉄道に乗り、安芸市の学校に向かう学生さんにもまれつつ球場前駅に戻る。公園のベンチで無事、サングラスを見つける。そしてほどなくやってきた、ごめん方面に乗り、赤野駅にもどる。
赤野駅からは、海沿いの遊歩道を歩く事になる。せっかくの海沿いの道なのだけれど、午前中はロスを取り戻す!な勢いでずいずい進んでしまう。ま、防潮林や堤防で海を望める場所も限られてるし、いいや。。。と。途中、休憩中のアメリカ人女性とすれ違い様に会話する。
午前10時、旧夜須町の道の駅を通過、少し先の空き地で休憩。ここから海岸沿いの道を離れる。
午前12時前、二十八番札所、大日寺に到着。
納経していたのは、名古屋からの女性二人、先ほどのアメリカ人女性、何度も抜きつ抜かれつしている、長い付き合いのクロアチア人男性、そしてカナダ人男性。外国の方が多い。4月1日の出発は、区切りが良いこともあってたくさんのお遍路さんで賑わうかと思ったら、やっぱり世の中の人は真剣にお仕事する季節なのかな?
同世代、少し広げて20-40代の日本人男性ってのは、結構少数派なのかもしれない。ペースがあうあわないというのもあるけれど、同世代と話をしたい!という気持ちにおそわれる。
大日寺に入る以前から、高知の平野部にでたけれど、網の目のように伸びる疎水、水路などから田んぼに水が行き渡り、そこかしこで田植えが始まっていた。田植えに限らず、高知平野では社会科の時間で習った通り、ビニールハウスを使っての野菜の栽培も盛ん。土地改良と毛細血管状の水路がセットになった、アメリカやオーストラリアと比べたら、切なくなるような規模だけど、きめの細かい、日本の農業が実感できる。
そんな道を歩いていると、行商だかお裾分けだかのおばさんがクーラーボックスを開け、遍路道脇で、魚をすくってる。
小さな鯖に鰈、小魚を追っているうちに網にかかってしまったのかアオリイカなんかが入ってる。地引き網かなんかの外道を配っているのかもしれないけれど、これぞ土佐な光景。いいなぁ。
へんろ地図の距離表示がなんだか疑わしいのがたまにきずだったけれど、大日寺〜国分寺間は、気持ちのよい歩きだった。そして、午後2時半。二十九番札所土佐国分寺に到着。
平野部のお寺は、結界を破られて、俗世世俗な空気が満ち満ちて残念なお寺が少なくないけれど、この、土佐国分寺は別格。鎮守の杜のような緑に囲まれ、境内は周囲の喧噪から断たれており、「厳か」と言ってもいいようなピンとした空気で満ちている。
ここで、大日寺でお会いした名古屋の女性とまたご一緒になり、あのアメリカ人女性も納経を終え、ベンチで話をする。名古屋のお二人は、少し距離のある三十番札所善楽寺までタクシーを利用するらしいので、アメリカ人女性を気遣って、「ご一緒にどうですか?」と言う。
「No.30に、ご一緒にどうですか?とこのお二人が言ってるけど、タクシーを利用しますか?」と通訳すると、「歩いていく」とのことだったので、三十番の途中まで向かう事にした。
彼女は、NYの大学で陶芸を教えている教授!とのこと。
有田、伊万里、唐津のような産地だけでなく、瀬戸、美濃、常滑といった産地と特性なんかにも通暁しているのが嬉しい。「常滑」の読み方は、例によって「トコナミ」になっちゃってたけれど。
彼女と10分程話をしながら歩き、札所間にある名城、岡豊城に向かうべく城山の麓で別れる。ちょっと時間が怪しいけれど、土佐に来て岡豊城を外すのは、焼き肉屋に入って、チョレギサラダをバリバリやって、コムタンスープをすすって帰るだけと同じ。城馬鹿を自称するのなら、登らねばならぬ。
城への道を探していると、制服姿の中学生が通りかかり、彼に道を尋ねる。
丸坊主のふっくら体型なのに、耳に小さなピアス(偽?)をしていたり、やんちゃな盛りといった感じ。ら、失礼だけど尋ねる人を間違えたかなぁ、と思ったら。。。
「はい、お城の正確な場所は分かりませんが、歴史博物館の裏の方だと思います。そこまでの道は、小学校時代にも通った道で、分かります。」
と、凄く丁寧親切。
自転車を降り、「こちらです。」
と道をそれ、先導してくれる。なんだかホロっと来てしまい、大きくなって中学生になったら、こんな中学生になりたいなぁと思った。
ここまでくれば大丈夫!なところでお別れし、お礼を言う。握手させてもらった。
この出会いが自分の心のやわらかい部分にでも振れたのか、嬉しさがこみ上げ、体に力が漲り、歴史博物館までを駆け上がってしまう。脇の登城道から、疲れを忘れ、一気に「詰」と呼ばれる本丸跡までぐいぐい上がる。
のんびりと公園化された古城というのは、想定内で、雨が近いのか眺望も良くない。その上、文字通り走り抜けた訪問でじっくり城の遺構も味わうことができなかった。けれど、親切な中学生のおかげで、岡豊城巡りは、生涯忘れない城になるなぁ。ったく、本丸跡で大声で叫んでしまったじゃないか。
そういえば、越後の春日山城でも、地元の小学生にカウンター気味に元気に挨拶されて、泣いてしまったなぁ、なんて思いながら善楽寺を目指す。
テンションが上がりに上がっているので、道ですれ違う人に、ガンガン挨拶し、水路でバス釣りしてる人には、「もう、スポーニング(産卵に向けた巣作り)始まってますか」なんて声をかけてしまう。
そういえば、こんな感じのテンションの高いオヤジと一日目の夜に会ったなぁ。俺も20年後はあんなオッサンになるのかなぁ。。
挨拶を繰り返しつつも、時計を気にしながら進んでいると、すれ違いさまに挨拶した、犬を連れたお姉さんに、呼び止められ
「頑張って!これでコーヒーでも飲んで!」
と500円玉のお接待。有り難い。
この人と話すとスイッチが入って、感情が破れてしまうかもしれないので、南無大師遍昭金剛と三度唱え、「有り難うございます。大切に使わせていただきます」とお礼を言い、頭を下げる。「失礼します」少し歩いて、もう一度頭を下げる。
その後も、たいして賑やかなルートでもないのに、
「あと少し、5時までには間に合うよ!」「頑張って!」
なんて声をかけられる。
その応援のおかげか、三十番札所、善楽寺に納経受付の10分前に到着。先に納経帳への墨書と御朱印を済ませる。
中学生や、犬を連れたお姉さん、お菓子を大量にお裾分けしてくれた名古屋の女性のことを思い浮かべ、ゆっくり読経する。信心は引き続き、うっす薄だけれど、今日ここまで辿り着けた事、忘れ物もあったけれど、そのずっこけが、気持ちのよい一期一会を引寄せた事に感謝する。
般若心経も少し様になってきたかな?
ザックを置いたベンチに戻ると、自分より少し前に辿り着いた、アメリカ人陶芸教授女史。心が折れてしまったのか、ここからはタクシーを使うという事で、
「高知駅の方まで向かうけど、ご一緒にどうですか?」とどこかで効いたようなお誘いを受けるが、「歩いていく」と、これまたどこかで効いた事のあるような返事を返す。明日の天気を心配する話をしているうちにタクシーが来て、「また!良い旅を!」とお別れする。
ポツポツと怪しい天気の中を、三十一番所に向けて歩き出す。
昨年9月、歩き遍路を通しで結願し、高知県出身の友人に電話する。今日打った札所の話をし、今歩いている場所から見える景色のことを伝えると、「お、その辺は高校の頃のデートコースだよ」なんて言う。
うーん、田んぼと工場しかないぞ?
デートじゃなくて、ザリガニ獲りかバス釣りじゃないの?と返そうと思うが、おっと危ない「天に唾する」ってこのことだ。東村山の高校生のおデートだって、酷いもんだったじゃないか。
高知県立美術館まで歩いた所で、本日の歩きは終了。路面電車に乗り換え、高知駅に向かう。
辿り着いたホテルで、
「申し訳ございません、禁煙をご希望との事でしたが、あいにく禁煙ルームが満室でして。。消臭スプレーをお渡ししますので、気になりましたら。」
とのこと。
アメリカのホテルチェーンが高知の中堅ホテルを買収したパターンのホテルで、喫煙ルームが少なくない様子だけど。。。でもさ、禁煙を。。。と思い、キャンセルしようかと思うが。。。
部屋は少々タバコ臭いかもしれないが、一番臭いのは昨日野宿で、風呂にも入れなかった自分だ!と気がつく。そんなことを、フロントの方に頭をかきながら伝え、チェックインしていただく。
「お遍路さんですよね?うちの兄も、体の調子が良くなるよう、歩いてお遍路したんですけど。。。」
なんて会話をする。
徳島の平等寺近くの郵便局から出していた局留め郵便物を、高知中央郵便局で無事受領。テントと煮炊きの道具を引っ張りだしたいけれど、明日と明々後日の天気予報は雨。足りなくなった蝋燭と線香を必要な分、少し抜き出す程度で、荷物を土佐中村局に送る。
晩ご飯は、郵便局の向かいのスーパー、鰹のたたきやらお惣菜。
そういえば、お遍路始めてからお酒飲んでないな、着の身着のままで、居酒屋に入る気にもならないし、一人で晩酌はやらない質。そういえば、飛行機の中と、飲み会でしか、俺って飲まないなぁ。
ということで、せっかくだからお遍路中はアルコール断ちする!と決める。ま、楽勝だろうけど。
明日の雨は少々気が滅入るが、今日が素晴らしいかったので、今夜はびくともしない。
10日目
歩行距離 / 約42.8Km 球場前駅近くの公園 〜 土佐電鉄ごめん線 県立美術館通駅
お寺 / 28,29,30 大日寺 国分寺 善楽寺
お遍路旅の詳細はあらためて。。。