知来別の夕日徒歩旅行 vol.0001 稚内市富磯 - 宗谷岬 - 浜鬼志別
出発。
稚内空港に降り立ち、団体客、レンタカーやバスで市内や宗谷岬に向かうグループから離れ、一人、小さなターミナルから外に出てる。
着陸に向かう飛行機の中からは、牧草地も見えたけれど、駐車場の向こうに道が走り、その向こうは草っパラ。
これこれ、最果ての空港なんだから、そうこなくっちゃいけません。
西の彼方に、利尻富士がボウッと浮かび、稚内市街のあるノシャップ岬方面には人の営みの気配がする。空港の南は草っパラと緩やかな丘陵地帯。北は海で、東は南から伸びる丘陵地帯がうっすら立ちはだかるように連なっていて、北に向かっている。この丘陵地帯の彼方に宗谷岬だね。
20分ほど歩くと、海沿いの国道238号線。
今回の歩き旅は宗谷岬から!なので、そこまでは!と、いきなり自分に甘々なヒッチハイクをスタート。数分で、宗谷岬の根元、富磯地区在住、稚内のホテルの朝の配膳仕事の帰りのおばさんの軽自動車止まってくださる。
「富磯までしかいかんけど、乗っていきなさい。」
その富磯がどこか分からないけれど、
「そこから車をまた捕まえるか、がんばって歩くかすればいい」
とのことだったので、お礼を言って車に乗り込む。
寒さは何とかなるけど、暑さがだめなのでまあやっていけますよ、何にもないけどね。。なんて話をおばさんがしてくれ、
「僕も暑くなると、頭が動かなくなるので、寒い方がいいですよ。」
なんて返す。
15分ほど走って、富磯の集落に到着。お礼を述べてお別れする。
富磯は、稚内から東に伸びる砂浜が、南から伸びてきた宗谷丘陵に遮られるような、九十九里浜だと太東のような地勢。ヒッチハイクに頼ることが難しそうなので、セイコマートでカロリーメイトなんかを含めてお買い物。次のコンビニ、セイコーマートは本日のビバーク予定地にあるのだけど、宗谷岬経由だとそこまで約40キロくらいとのこと。
40キロっていうと、新宿から八王子、いやもう少しあるかな?
新宿から八王子の間に、一件もコンビニがないような世界を思い浮かべる。ぬぅ、イメージできん。ま、そんな世界の始まり始まり。
なんとなくヒッチで宗谷岬までの車をつかまえられなさそうなので、小休止の後すぐに歩き出す。道路標識によると岬まで約10キロ。2時間をメドに歩き出す。GPSのアプリもめでたくこの富磯から起動し、歩きのログをとり始める。
富磯は、その名の通り、確かに呼吸でもするような栄養豊富そうな磯が見渡せる。磯といっても、ぼこぼことした岩場に潮溜まりがあるようなそれでなく、珊瑚のラグーンの浅瀬が沖へ伸びるような海岸。干潮か満潮か判然しなかったけれど、くるぶしから腿までくらいであろう浅瀬。
同じような、沖まで浅瀬な海岸線は、富磯から北にもひたすら伸びていて。その浅瀬と、宗谷台地と段丘上の緩やかな崖の間、その間の穏やかな踊り場のような岸辺の平坦な場所に道も伸びている。
郵便局のある「宗谷」の集落をのぞいては小さな集落ばかり。
午後2時過ぎ、宗谷岬到着。富磯を昼過ぎに出たので時速5キロ以上で歩いている。悪くないペースだ。
さて、宗谷岬。
平日の昼間、のこのことこんなところまでやってくるのは、元気な爺さん婆さん、たまたまカップル連れな様子で、宗谷岬のモニュメントを背後に写真を撮ってくれる人にお声がけするのも。。。と思ったら、お姉さん。
カメラを渡して、ハイテンションでポーズをとる。
「え?お兄さん歩いてきたの?乗ってく?」
と、日本の先っちょで逆ナンパされる。が、そのお姉さんのお母さんとおぼしき方。
「ここから乗っけてしまったら、大変だね。」
なんて言ってくれる。「お二人ともおきれいなので。。。。」なんて調子のいいことを言ってお別れする。
さて、出発だ!
と言いたいところだけれど、この先、食事がとれないかもしれないので、岬の前の食堂でイクラ丼。この季節にイクラ丼はないかぁ。。宗谷五色丼だったなぁ、なんて注文早々思う。
おなかを満たして、再出発。
画像では分かりにくいけど、鹿がいます。看板がはがれ、「河 店」となっているお店で、ちょっとした食料を補充がてら、ご主人に尋ねると、
「歩きかい?あ、そう。途中で緩い峠があるけれど、大丈夫だよ。え?自動販売機?えっと、東浦いや、知来別にある。浜鬼志別?遅くなるけど行けると思うよ。」
なんて言われる。どうやら、時々、同じような道を歩く旅人がいる様子。どんな人がどんな気持ちでこの店に立ち寄ったんだろ?なんて思う。
このブログを読んで、歩き旅でこの店に立ち寄る方はいるかな?
いるとしたら、自分の気持ちは、「うっしゃぁ!いくぜぇえ!」なハイテンションでした。この店に立ち寄ったら、自分の残存思念を探し出して感じていただければと思います。
宗谷岬の集落のはずれにある大岬小学校と数軒の家並みを抜けると、景色は黄緑色した丘、道、海だけとなる。音楽を聴きながら、ひたすら進む。
交通量も、宗谷岬までとは半分、いや1/4以下になった感じがする。
宗谷岬の南を大きく旋回した、稚内空港への侵入ルートから見た景色を自分が歩いているのを実感。海岸線、海岸線から離れ時々丘。
そんな景色の中を、歩いていると、時々すれ違う車から、笑顔が飛んできたり、パトカーの中のお巡りさんが、敬礼に敬礼を返してくれたりする。後ろも前もまったく車の気配がしないときは、大声で歌ったりしながら前へ前へ。
丘をこえ、すれ違う車にガッツポーズを送りまくっていると、一台の車が、スピードを落とし、止まってしまう。
「お!乗ってっか?」
「あざっす!がんばって歩きます!」
「お、そうかい。きをつけて!」
なんていう会話。あと少しで40になろうとしているのに、なんだか学生時代に戻って貧乏旅行し、貧乏な分、人の暖かみや優しさが染み入る。な旅だなぁ。金銭的余裕が今もないのは差し置いて、とにかく気持ちが若返るなぁ。
走り去ってゆくトラック、そのトラックがたどった一本道、その一本道を挟み込むような、オホーツク海と宗谷の原野。
そんな海沿いの景色から道は林の中のワインディングロードになる。ひたすら歩いてゆく。携帯は当然のことのように通じなくなる。
日没と水が心配。小さな川の河口でヒラメを狙うおじさん。
500mlのペットボトル二つ分を小休止ごとに飲むが、つい先日から暖かくなったという宗谷地方。日が傾いても歩いていると喉が渇いてくる。昭文社の1/750,000の地図からすると、「峰岡」という地名をすぎ、「東浦」に向かっている道らしいけれど、まず、「峰岡」には集落はおろか、廃墟廃屋すらなかった。
さすが日本の果ての果て、手強いなぁ。と思っている頃に林が開け、海が見え、海岸線に港。
よ、これで飲み水確保は。。と思っていると、東浦らしき港のある集落には、人が住んでいる家があり、夕涼みの地元の方とすれ違うものの、自動販売機は無し。ぬぅ。遥か彼方にひとまとまりの家並みがあるけれど、そこまで水がもつか状態。いきなりこのひもじさは何だ?
救援を求められない場所があったり、水が補給できなかったり、歩き旅ならでは状態。
「ビルゲイツがここを歩き、ポケットに100兆円の残高があるATMのカードがあっても何の意味も為さないぜ、自分の足と気力と体力でのりきるんだぜ、オウオウオウ!」
なんて思うけれど、まあビルゲイツはこんなところに来ないし、歩かないよな。
宗谷岬から20キロほど歩き、猿払村に入ってようやく現れた少々奥行きのある集落にたどり着く。集落の名は知来別。
午後7時前、ようやく自動販売機を発見。自動販売機どころか、商店も開いているので、たっぷり飲み物を購入する。
見落としがあるかもしれないけれど、宗谷岬以来初めての補給ポイント。店も自動販売機もない区間が20キロも続くなんて、1200キロのお遍路中でも記憶がない。せいぜい室戸近辺の15キロくらいだろう。やるなぁ宗谷地方。愛してるぜ。
商店で
「あ、歩き。野宿。それだと今日は浜猿払の道の駅?」
と言われたので、そこを目指すことにする。
ボタ山ならぬ、ホタテの貝殻の山。 ホタ山。浜猿払までの一本道で、8時を過ぎ、さすがに日没。
日は沈んでしまったけれど、開いていた食堂、「彩雅さん」で、ホタテ漁獲高全国一!の猿払のホタテ丼を頂く。近くで開いていたセイコーマートで朝飯よりは、と思ってメニューのおむすびを持ち帰りにしようと思ったけれど、一つの値段だと高いなぁ。ぬぅ、セイコーマートか。なんて思いつつお会計して出ようとすると。
「お兄さん!むすびでも持ってくかい?」
とおばさん。
空いたペットボトルに嫌な顔一つせず、水をついでくれた上、おむすびまで。。。ふとっちょの板前の息子さんに笑顔で送り出して頂く。
幸先いい!北海道!ありがとう!
真っ暗になって猿払の道の駅にたどり着いたのは、午後9時過ぎ。
トイレ近くの芝生に、ライトを口にくわえテントを張っていると、キャンピングカー退職後旅の男性に声をかけられる。
「歩きですか?」
「はーい!まだ一日目なんですけど。」
「じゃ、頑張って!これ!」
なんて言って冷え冷えのスーパードライを頂く。
距離はあったけど、初めての景色の中を進んで、白地図に色を付けてゆくような歩き旅はやっぱり最高だった。歩き旅をまた初めてよかったし、富磯まで送ってくれたおばさん、宗谷岬の母娘、止まってくれたトラックに、ホタテ丼。枕元のおむすびとビール。すべて最高だ。