サパ / Sapa
ハノイを朝方出発し、昼過ぎにたどり着いたサパは、霧の中というより雲の中。ハノイだって朝晩は冷え込む季節に、1,600mも標高をあげればそりゃ寒い。体感気温は東京のそれ。町ゆく人は長袖を通り過ぎてダウンジャケットを身にまとい。フードもフルパワーで被っている。ボーリングのピンみたいだね。
今回の目的は、トレッキングと、高速が通って急激に観光客が増えた町の様子を探るっていう裏ミッションがあったのだけど、ミッション云々以前に、まず、観光客の数に圧倒されてしまう。はっきり言って騒がしく、中心部では渋滞が起きているくらい。オフシーズンのはずなのに。
グループで来ている感じのベトナム人旅行客が多いので、何人かに聞いてみると。社員旅行といった意味の答えが返ってくる。ベトナムでは仕事を選ぶ際に社員旅行を想定した上で「福利厚生」なんかを重視するってのは聞いていたけど、あっちもこっちもそっちもどっちも、同僚と自撮り棒でぱちゃぱちゃやるベトナム人で霧の町は賑やかだった。
旅行代理店を値段やらをチェックしてハシゴするのが面倒なので、ツーリストインフォに出向くと、英語とフランス語を器用に操る男性がおり、説明もパリッとしているのと、予算も想定なので即断する。トレッキングの話を伺いがてら、サパの観光事情を聞くと、今の所、ベトナムの国内旅行客が一番で、その次に中国人。その次がフランス人と続くそうで、ハノイからの高速道路が近くまで通った影響が大きいとのこと。ホテルが満室になって、観光客を捌ききれない日もあるそうだ。
ったく信じられない。
もしかしたら雪が降ることはあるかもしれないけど、スキー場なんかは当然ない。有名な棚田も、ベトナムなのに一期作しか許さない気候ゆえに、2月の今の季節は草ぼうぼうだ。シーズン的にはこのエリアの避暑としての魅力なんかが一番失われる冬。うんちゃらViewホテルなんて名前を冠したホテルが軒を連ねている割に、1日のうち半分は視界が100m以下になるような場所なのに旅行者が絶えない。
観光客を捌ききれない日もあるそうだって?すごいね。いやぁ、勢いあるねサパ。
町は、コロニアルな建物が一部残っている?し、ヨーロッパの山あいの町を多少は意識したような感じもするけれど、看板だらけで雑然とし、霞んでしまっている雰囲気を一言で言えば、中国の田舎といったところ。食堂もマッサージ屋の値段表記も、越中英の三ヶ国表記をするもんだからか、ワチャワチャしている。
そんな中に洗練されたカフェやらホテルが現れるのは、新興国の観光地ならではかなぁ、なんて思い、せっかくだから洋風で行こうかとなり、晩飯はピザにした。
さて、トレッキング。
17ドルの日帰りのツアーを予約し、指定の時間に宿で待っていると、小柄なモン族の女性リーダーとその仲間のおばさん達、そして彼女らに囲まれたツアー客が現れる。11人の参加者に、11人のサポート?が付いてツアーリーダ。総勢23名。「ツーリスティックだよ」とインフォメーションで予め伝えられていたけれど、どうやら彼女たちと一緒に歩いて、最後は民芸品やらを買わなきゃいけないんだろうなぁ。なんて思いながら出発する。
ツアー自体は誠にシンプルで、ひたすらサパの谷あいを歩いていくというもので、ビューポイントで時折足を止める程度の5分休憩がある以外は、ひたすら歩くだけ。
時折、藍染の原料の「藍」を栽培している場所で足を止めたり、豚を飼っている小屋を指差して、「豚」と言うくらい。でも、ツアーリーダーのおばちゃんに「モン族の女性はこうやって頑張って働いてるけど、男の人たちは見ないね。男は何をしてるの?」なんて聞くと、「男は英語が苦手なんだよね、だから家の料理やタクシードライバーみたいなことしてお金稼いでるよ。」なんて答えてくれる。
過剰にあれこれ説明しようという気はないけれど、いざとなるとしっかり説明してくれるガイドさん。なるほど、これでいいんだろうね。参加者は、前日の雨もあってぬかるんだ道を歩くことで精一杯だし、住み慣れた土地や、歩き慣れた山との景色の違いや、植生、人々の暮らしをチラ見できることで満足できる。そこで感じた疑問に答えてあげるだけでいいんだな。と感心する。
歩いた箇所で優劣をつけるとしたら、自分自身の身びいきを差し引いても、ぬかるんだあぜ道や、集落の軒先を抜けるような未舗装な未整備路、言い換えれば人間や家畜しか通れないような道を、モン族のおばちゃんのサポートを受けながら歩くことが楽しく、景色はよくとも車が通れるような道は、アドベンチャー感に薄く、疲労度が増すだけだった。
トレッキングルートの3/4くらいの地点に他のグループなども含めて、昼食をとる施設があり、そこでサポート?のモン族の女性たちとはお別れ。予想通り、1 on 1でついていただいた方から、何かを買わないわけにはいかない空気も醸造されており、相場より少し気持ちを込めた金額で民芸品を購入してお別れ。
そのあとの1/4は、整理体操のような歩き。モン族の集落を抜ける歩きなのだけれど、通りに面した家々の多くが土産物屋になっていて、歩き自体にあんまり魅力はないのだけれど、食事で打ち解けたツアーメイトと軽口を叩きながら歩いたりできて悪くない。
旅行用語で風土接触量という言葉があるけれど、歩いて移動することと、コミュニケーションの量はやはり時間を濃密にして、風土接触量を増やすな。この記事はラオスからカンボジアに飛ぶ飛行機の中で書いているのだけど、目をつぶっても5日前の歩いた景色が像を結ぶ。再生可能だ。
インスピレーションいただいた部分は盗用させていただき、考えているプランを練り直そう。トレッキングがそういうものだとわかって、木曽にくる旅行者に余計なオプションやサポートをしない旅行商品を造成したいぜ。。と感じながらサパを後にしました。
あ、サパからは28時間かけて一気にラオスのルアンパバーンに向かったのだけど、長距離バスの過酷なネット情報に慄いて、決断できないでいる自分に、
「明日のツアー(今回のトレッキング)の様子をみて、ルアンパバーン行きのバスのチケットを買うかどうか決めてくれればいいよ。これが電話番号。ツアーガイドの人にこの電話番号を伝えてくれれば、いつでも僕がバスを手配する」
と、ツーリストインフォの男性が的確な提案をしてくれたのも書いておかないと。
結局その日のうちに自分からバスに乗ることを伝えたけれど、バスの遅れを逐一電話で連絡してくれるし、バスに乗り込むまでバスを待ってくれたりと、自分が来た旅人にここまで出来るかというくらいのサポートをしてくれて、一切チップの類は求めなかった。
たいした金額じゃないけど、
「これで、サパのコーヒーでも飲んでくださいよ。ありがとう」
と気持ち良くチップを渡し、気持ち良く受け取ってくれました。国境のパスポートコントロールで、ベトナム人の激烈な割り込みに辟易するんだけど、そんなことがあっても、やっぱりベトナム人は個の能力に優れていて、学ぶべきところ多いな、と感心しながらサパを後にしました。